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理事長

学生とともに、未来へ(理事長からのメッセージ)

理事長 高石恭子(甲南大学)

  コロナ禍の続く中、多くの大学で後期授業が始まりました。会員のみなさまはそれぞれ、新年度の始まりには想像もつかなかった地点に今自分が立っていることを、感じていらっしゃるのではないでしょうか。
  私自身も、無我夢中で歩み続けたこの半年あまりでした。LMS(Learning Management System)を用いて授業のデジタルコンテンツを配備し、画面上で学生のレポートを読み、やり取りをすること。ウェブ会議システム(Zoom、Teamsなど)を用いて遠隔相談やミーティングを行うこと。同様にセミナーや研修会に参加すること。それらがいつの間にか普通のことになり、Wi-Fiがありインターネットにさえつながれば、世界中どこにいても、空の上(機内)からでも、お互いの顔を見ながら同時双方向のコミュニケーションができるのだということに目を拓かれました。
 このようなウェブツールを使うことは、自動車を運転するのと似ているのではないかと思います。もともと得意不得意があるでしょうし、次々と開発される新しいサービスを急いで使いこなすためには、免許取り立ての技能で路上に出て練習するしかありません。当然、ヒヤッとする事態も起こります。しかし、私たちが失敗を恐れて守りの姿勢でいるばかりでは、今を、そしてこれからの未来を生きる学生たちの役に立つことはできないでしょう。
  前期の数ヶ月、LMSを介した個別のやり取りのなかで、「深夜にすみません。課題ができたので受け取っていただけますか?」「先生方もたいへんなのに、学生のことを気づかってくださっているのがわかって嬉しいです」といったメッセージが学生から添えられることがたびたびありました。夜、一人でPCやスマートフォンに向かっている(会ったことのない)学生の姿を想像し、少し温かい気持ちになって返信しながら、これもまた私たちにできる貴重な一つの「つながり」のあり方なのだと実感した次第です。

 文部科学省が9月15日に発出した「大学等における本年度後期等の授業の実施と新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について(周知)」においては、大学における豊かな人間性の涵養のためには、直接の対面交流が重要であることの再確認と、感染防止対策を取った上で対面授業を実施する工夫の要請がなされています。この「周知」に至った背景には、前期中に実施されたさまざまな調査から、長期の自粛生活と慣れない遠隔授業のストレスにより、無視できない割合の学生が心身の不調を経験し、また修学への意欲を失っている(休退学を考えている)という結果が示されたこともあるでしょう。なかにはセンセーショナルにメディアが取り上げたものもあり、私たちは慎重にその数値を読み解く姿勢をもつ必要がありますが、文部科学省の方針や調査報道を受けて、高等教育機関は目下、それぞれの事情に応じた「対面と遠隔のハイブリッド型授業」の構築に取り組んでいます。正課外の活動も、多くの大学で新たなルールの下、対面実施に移行しているところです。
  後期開始にあたって、学生たちは前期より複雑で多岐にわたる選択肢のなかで、主体的に自らの学生生活を組み立てるという課題が与えられることになりました。しかも、いったん作り上げても感染症の状況に応じていつ修正を迫られるかもしれないという事情は、当分続くでしょう。とりわけ、これから半年遅れでキャンパスライフがやっと始まっていく新入生にとっては、このような要請は過重な負担となることが十分想定されます。また、見通しのもちにくい中での進路選択や就職活動に不安を募らせる高学年生も少なくないでしょう。
  前述の文科省の周知文書に書かれた留意事項の中にも、これらの学生への相談対応に万全を期し、「カウンセラーや医師等の専門家とも連携してきめ細かく」対応することが要請されています。また、より相談しやすい体制構築のために、SNS、ウェブ会議システムやメールを活用した例が挙げられています。学生相談もハイブリッド方式で行われることが標準になる時代がすぐそこに来ていると考えられるでしょう。
  本学会では、3月から活動してきた「学生相談における遠隔相談導入に関する検討チーム」と今期の特別委員会が中心となって「遠隔相談に関するガイドライン」を策定し、公開しました。ぜひお読みいただき、ご意見やご提案をお寄せください。そこでは、遠隔相談は対面相談の代替手段ではなく、多様な学生相談の方法の一つとして位置づけられています。今後も、テクノロジーの発達とともに活用が可能になる新たなサービスやツールに対して、私たちは学生とともに学ぶ姿勢をもち、学生の心の成長のためにいかに役立てられるかを真摯に考えていきたいと思います。
 なお、前期は遠隔相談のみを行い、後期に対面相談を再開するにあたって情報が必要であるという方は、本ウェブサイトや会員向けメールニュース、学生相談ニュースなどでみなさまにお届けした【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について】第5報「『緊急事態宣言』解除後の大学において安全に学生相談を行うために」(5月27日公開)をご参照いただければと思います。最小限必要な知識と実践のための準備については、ここに網羅されています。それぞれの大学等の方針に合わせて、柔軟に活用していただけたら幸いです。 
  非常勤の立場で、また常勤であっても一人職場のような環境で、この困難な状況に立ち向かわれている会員のみなさまにとっては、相談活動にあたって平常以上に不安やご苦労の多い状況が続いているかもしれません。これまでのメッセージにも書かせていただいたように、コロナ禍でストレスに晒されているのは学生も私たちも同じです。私たちが安心と安全を感じられない環境では適切に学生を支えることはできないでしょう。困ったときには仲間と支え合い、自分自身を労わることもどうか忘れないでください。

 さて、このような取り組みに注力するうちに、気づくと現執行体制(第11期常任理事会)の任期も半ばを迎えました。ここで、前半期のご報告をさせていただこうと思います。
 理事長から就任時のごあいさつでみなさまに公約したのは、1)学術情報等の電子化の推進、2)年次大会や研修会の内容と開催方法の見直し、3)本学会の組織体制そのものの検討、の3点でした。いずれも、コロナ禍への対応により加速した部分と、遅延している部分とがあります。
  1)については、会員のみなさまへのサービスに滞りのないよう、情報発信や各種活動の電子化・オンライン化をまず重点的に進めてきました。コロナ禍により、会員への情報発信の電子化は急速に進んだと思います。会員管理システムの導入や、ジャーナル編集のオンライン化の導入などが、これからの課題です。2)については、想定以上の見直しを迫られることになり、目下も対応中です。5月の年次大会、8月の夏のセミナーをオンラインで開催したことに続き、11月の全国学生相談研修会も全面オンライン実施が決まっています。今期にどこまでたどり着けるかはわかりませんが、今後の開催については、ハイブリッド化、そしてハイフレックス化(対面と遠隔の同時実施)が現実味を帯びた検討の俎上に上がってきています。3)については、コロナ禍の影響で少し遅れましたが、本学会の「法人」化の具体的検討が2022年4月の設立を目指して進んでいるところです。法人化については、会員のみなさますべてに深く関わる課題として丁寧なご説明が必要であると考えています。準備が整いましたら、その機会を設けていきたいと思っています。
  本学会が発展し、その意義を認められていくうえで、以上のいずれもが重要至急の課題であると認識しています。学生とともに、未来へ向かって確かな歩みを進めるために、会員のみなさまの知恵と経験を結集することが今までに増して重要です。引き続き、ご協力を賜りますようお願いいたします。

参考:「大学等における本年度後期等の授業の実施と新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について(周知)」

 

 

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理事長

今こそ、個へのまなざしを(理事長からのメッセージ)

 理事長 高石恭子(甲南大学)

 卒業、入学、入社・・・人生の重要なセレモニーが今年は通常通り行われないまま、新年度が始まりました。握手したり、肩を抱き合ったり、桜や新緑の下でお喋りを楽しんだりといった、いつもなら当たり前の別れと出会いの風景もなく、若い人々の記憶には「失われた春」として、生涯刻まれるに違いありません。

 新型コロナウイルス感染症は、1月16日に初の国内感染者が確認されてからまだ3ヶ月ほどしか経っていませんが、今では世界中のほとんどの国で猛威を振るい、人々の生命を脅かしています。肉眼では見えない「敵」に対し、私たちは自粛し、自制し、総力を挙げて戦うよう駆り立てられています。

 見えない敵(異物)がある集団・社会に侵入してきたとき、気をつけなければならないのは、必ずそこに「排除の論理」が力をもつようになるということです。

     今年開催されるはずだった東京五輪・パラリンピックの大会理念の一つは、「多様性と調和」でした。教育においても、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩する」という、多様性(ダイバーシティ)の実現が目指されている21世紀の今日です。しかし、今回のような感染症問題が発生すると、魔女の呪いとされた中世とほとんど変わらないデマが飛び交い、欧米でアジア人が殴打されたり、日本でも電車内でマスクを着用しない人が暴言を吐かれたりする事態が生じるのは、残念で仕方ありません。オリンピックの理念は、カウントダウンパネルと一緒に片付けられてしまったのでしょうか。不安が高まると、異質なものや少数のものを集団から排除して自分を守ろうとする衝動を抑えるのは、人間にとってかくも難しいことだと言えます。

 

 このような今こそ、学生相談に携わる私たちは、「個へのまなざし」を忘れないようにしたいと思います。本学会を含め、心理学関連諸団体からは、遠隔相談の導入や、隔離された人への心のケアについて、日々新しい情報が発信されています。各高等教育機関においても、文科省の指針に沿って、遠隔授業の導入実施に向けた準備が急スピードで進められています。この流れについていかないといけないと、焦りや不安を覚えているみなさんも少なくないでしょう。しかし、そのような急流に呑み込まれないようにしていただきたいのです。

 今、私の所属する大学で学生たちの声に耳を傾けていると、25年前の阪神・淡路大震災での経験と重なる部分が多いことを感じます。非日常の状態が発生し、持続すると、それまで自分を支えていた軸(社会から与えられる物差し、あるいは参照枠)が失われ、新たな軸を用いて自分を支えることが必要になるため、同じ自然災害であっても、学生によって心の反応は全く違った様相をとるということです。たとえば、限られた私の体験から思い出すなかでも、生きる意味を見失って何年も引きこもっていた学生が体を張って家族や避難所の人々のために働き、感謝されることをきっかけに心を蘇らせて卒業を果たしていったり、充実した学生生活を送っていた学生が、何も失わなかったことが罪悪感(サバイバーズ・ギルト)になり、何ヶ月もたってからうつ状態に陥ったりという、想定外のことがいくつもありました。

 今回も、部活動に生きがいを感じていた学生や、周到な準備をして長期留学の出発が間近だった学生の喪失感は、測りきれないものがあります。一方、対面授業や学生同士のグループワークが苦手で欠席がちになっていた学習意欲のある学生にとっては、「登校しないことが標準」の学生生活は、希望の光が差すものに感じられていることでしょう。また、「家にいてください(Stay Home/Stay at Home)」という政府のメッセージは、家族関係でつらい思いを抱えている学生にとっては、単なる自粛ストレスを超えて、心の傷をえぐられるものとなっているかもしれません。さらに、自分や家族が感染してしまったことで、自責の念に苦しんだり、差別的な扱いを受けて怒りを抱えている学生もいるでしょう。

 学生相談に携わる私たち、とりわけカウンセラーは、このような非常事態において見過ごされがちな少数の、また一人ひとりの学生の心に何が起きているかにまなざしを向け、寄り添うことが大切です。また、一人ひとりから発せられる声を聴き取り、理解し、大学や社会に伝えていくことが必要です。

 危機対応は、学生相談に携わる者の重要な任務の一つです。常に「最悪の事態」を想像して万全の準備を行いつつ、できるだけ「平常の心」で一人ひとりの学生とつながることを試みてください。それができるためには、まず私たちが安心と安全を確保していなければなりません。とくに感染者の多い地域で、非常勤などの立場で学生相談に携わっておられる方々にとっては、自分に何ができるのか不安や戸惑いを感じる局面も少なくないでしょう。相談や支援の新たな選択肢を増やすことは、もちろん良いことに違いありません。ただ、決して自分の不安に蓋をして無理に頑張ろうとせず、ときには大学や組織から求められる何かを「しない」判断をする勇気も、もっておいてほしいと思います。

    多くの自然災害と同様、今回の感染症拡大においても、個人が受けた心の傷つきの影響は年単位でその人の将来に影響を与え続けるでしょう。それは学生だけでなく、カウンセラーや教職員も同様です。目に見えない奥深い不安は、戦って一掃することはできないという意味で、ウイルスより手強い存在かもしれません。どうぞ、みなさんの経験を記録し、信頼できる仲間と共有し、まずは自分自身の平常の心を確認して下さい。本学会もみなさんと共に、新型コロナの時代の学生の生活と巣立ちをどのように支援できるか、考えていきたいと思います。

 

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理事長

新理事長就任あいさつ

理事長 高石 恭子(甲南大学)

 このたび、第11期理事長を務めさせていただくことになりました。事務局長、9名の常任理事、19名の理事、そして監事2名とともに、これから3年間、本学会の運営と発展に力を尽くしていく所存です。

 本学会は、前身の「学生相談研究会」(1955年設立)から数えて64年、日本学生相談学会(1987年設立)となって32年という長い歴史をもち、現在の正会員(個人会員)は約1400名、機関会員は約300を擁する学術団体です。その目的は、会則第3条に「学生相談領域の研究と発展をめざし、学生相談活動についての普及啓発を行い、あわせて会員の資質の向上を図ること」と記されています。正会員だけでなく機関会員校で学生相談に携わる教職員も含めると、これら3つを柱とする本学会の活動は、数千人またはそれ以上の規模の会員に向けられ、また支えられていると言ってもよいでしょう。

 他の隣接領域の学会とは異なる本学会の大きな特徴の一つは、構成員が高等教育機関に勤務し、「学生の相談に関わっている」ことを重視してきた点にあります。通常、学術団体の入会資格には、その専門領域の学部卒業・大学院修了や研究実績などが含まれますが、本学会はその条件を掲げていません。高等教育における相談実践の「場」と「対象」を共通基盤とし、そこでの実践に基づく研究から生まれた知の体系化を目指しています。戦後わが国の高等教育に導入されたSPS(Student Personnel Services:厚生補導または学生助育)の理念とカウンセリング心理学の方法論を継承しつつ、学際的な専門性に基づき、時代社会の要請に応える学生相談を実現するための新たな挑戦を行っていきたいと考えています。

 21世紀を迎えてからの社会の流動化、そして世界基準に照らした質の保証を求める高等教育現場の変化には、著しいものがあります。本学会も、それらに呼応して多くの変革すべき喫緊の課題を抱えており、着実に取り組んでいかなければなりません。今期に検討する課題として、第一に、本学会が蓄積してきた学術情報等の電子化があります。これまで会員頒布として紙媒体でのみ共有されていた研究成果へのアクセシビリティを向上させ、近い将来には高等教育関係者のみならず、社会に向けて広く発信していくことを考えています。

 第二に、本学会会員の資質向上と会員相互の交流の促進のために、年次大会や研修会の内容と開催方法について見直していくことがあります。大学等の構成員も、社会の趨勢と同様に流動性が高まり、継続的に研鑽の場に参加することが難しいだけでなく、数年先を見越して同じチームで大会開催を引き受けたり研修会の企画運営に携わったりすることも困難となっています。将来にわたって持続可能なこれらのあり方を模索することは、最も緊急性の高い課題と言ってもよいかもしれません。

 第三に、本学会の組織体制そのものの検討があります。前の期より、これまで任意団体として活動してきた本学会の社会における位置づけをより盤石にするために、法人化の可能性も視野に入れた情報収集を行い、検討の準備が始められています。体制変更の実現に至る過程では、会員資格、役員体制、選挙、財務・会計などについて多くの見直しが必要であり、会員の皆様との共通理解の形成が必須です。

 ほかにも、心理職の国家資格(公認心理師)が誕生し、学生相談領域に加わった新たな責務への理解と対応を検討するなど、取り組むべき課題は山積です。本学会が、会員の皆様の日々の実践への力になるとともに、個々の学生の成長と高等教育の発展に寄与できることを願って、今期の活動を進めてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

                            2019年5月21日

 

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理事長

学生相談とライフサイクル

~世代交代と世代融合を視野に歩む~




日本学生相談学会理事長 齋藤 憲司




 さほど寒くはならないという長期予報があった気がするのですが、しっかり冷え込みが続く年越しとなりました。新しい年を迎えて、学生相談・学生支援に携わる皆様はいかがお過ごしでしょうか。個人としても組織としても、1つ次のステージに進んでいければと願っています。ともに歩んでまいりましょう。本年もどうぞよろしくお願いいたします。




 さて、「高めよう!学生相談力×学生支援力」という共通テーマを掲げて活動を展開してきた今期役員一同ですが、その任期も残り4ヶ月半となりました。もちろんこの期間にもさまざまな企画・行事が計画されておりますし、理事長フラッグツアーでも各所をめぐるべく調整を進めているのですが、それでもある種の感慨を抱きながら新年の有り様を展望しています。




 学生相談の1つの原点として「学生期とはどういう時期であるか」を繰り返し問いながら、私たちは望ましい支援のあり方について検討を続けていきます(*註1)。よく言われるように「青年期は時代を映す鏡」という側面がありますから、学生像も徐々に変容し、それに連れて学生相談•学生支援に求められるものも変わってくるでしょう。現場に生きるプロフェッショナルとして、専門領域の発展を期す実践者•研究者として、継続的な研鑽が求められる由縁でもあります。我が国に学生相談が導入されて60数年、ひとに例えれば「還暦」を過ぎて完成の域に近づいていることになりますが、若い世代と向かい合うその特性とも相まって、どこか「青年期」の気風を残している領域にも感じます。自身の歩みとも重ねれば、20代後半から学生相談に従事してはや30年超、今年還暦を迎える身としては、「青年期」に片足を残したままにエリクソン,E.H.がvirtue(徳目)で示すところの「中年期」の 「care(世話)」と「老年期」の「wisdom(叡智)」を併せ持った存在として、若い人たちを支え、指針を示していける自分でありたいと願い続けてきたところと共通しているようにも思います(*註2)。その一因としてはJohn Denver氏の詩にしばしば「wisdom」という言葉が使われていたことも影響していそうですが、それのみならず青年期の頃から自分にはどこか上の世代の役割をも意識しながら日々を過ごす傾向があったのかもしれません。この仕事を担う者は、若手もベテランも、こころのどこかで世代融合を内面的に推し進めながら職務をこなす特性を有しているのかもしれないなと思ったりもしています。学生を見守る温かいまなざしと相談面接や見立てのエッセンスを併せ持った専門家である我々の集う場所には、常に「青年期」心性が基底通音のように奏でられ、そこに各個人のキャリアを構築していくイメージでしょうか。




 さて、個人と組織の関係性を考察する際に、しばしばスポーツ、とりわけサッカーの現況を援用することが習い性になって久しいですが、間もなく始まるAFCアジアカップ・カタール大会を前に、三銃士と称される若き俊英たちの活躍を思い浮かべてはわくわくしています。新たに監督の任に就いた森保
一氏がしばしば言及されるように、新チームでは「世代交代」と「世代融合」が大きなテーマとして取り上げられています。チームスポーツの世界では“同じ実力なら若い方の選手を使え!”という原則がありますが、その所以は若手は一気に伸びる可能性を秘めており、(決してラッキーボーイに留まらずに)勝負を決する働きを果たしうることが第一義にあり、加えて、チームを継続的に強化していくためには、前の世代の経験とスピリッツを体感して同世代・次世代に伝達していく担い手としても機能することが期待されるから、と言って良いかと思います。しかるに、昨年のFIFAワールドカップ2018において予想を覆す快進撃を見せた日本代表は、結成直後はくたびれたおじさんによる伸び代のない集団と揶揄されていたことを思い出します。それゆえ、当時も、そして現在では若手が躍動し始めたインパクトゆえに、「三銃士を始めとする若手をロシアに連れていけばもっと良いチームになったのでは?」という声が時折聞かれるようです。この選手セレクトとマネジメントについては、西野
朗監督(当時)が“前回のブラジル大会における悔しさと雪辱を期す選手たちに賭けたのだ”という旨の発言をしておられますが(*註3)、まさにその通りに事前の評価を覆して
、“すでに終わっている”とさえ囁かれた選手たちがどの試合でも最上級の良質なプレーを見せてくれました。彼らには決勝トーナメントをさらに駆け上っていって欲しかったですが、最終的に熱戦の末にこれ以上はないというくらいに悔しい負け方をしたベルギー戦を区切りとして残してくれたがゆえに、サッカー界全体として新しいスタートを切りやすくなったようにも感じています。言うならば、「世代交代」を進めて刷新された現在の代表チームの目を見張る溌剌プレーの数々は、1つ前の世代が「Japan Way」を譲らず目指すべきサッカーをアグレッシブに体現しようとした、その「やりきった感」が準備したものなのだと強調したい気がしています。




 少しむりやりな重ね方に思われるかもしれませんが、残り4ヶ月半で任期を終える現執行部も同じような思いで数々の業務に励んできたような気がします。様々な巡り合わせから常任理事会では同世代あるいはかなり年齢の近いメンバーが過半数を占めるだけに、徐々に現任校でのキャリアの区切り方も気にしつつ、次の世代にいかに大切なものを引き継いでいくかを意識しながら様々な企画や行事に臨んできました。私たちの「やりきった感」が、「学生相談力×学生支援力」のスピリッツとなって中堅・若手の方々に受け継がれることを願い、新たな海原に向けて帆を上げて進んでいってくださることを期待しています。新時代の息吹きがきっとすぐそこに来ていることを信じたいと思います。(*註4)




 そして、次期執行部への引き継ぎが行われる本年5月の第37回大会を大妻女子大学にて開催して頂けることにもとても大きな意味を感じています。大妻女子大学の皆様によるご実践が学生相談領域において大きなインパクトを提示してこられたことに加え、今回の大会では今までにない形態で企画•運営が進んでいることは今後に向けて大きな示唆を与えてくれるものと思います。なかなか開催校が決まらなかった中で、学生相談に強い思いを保持しつつ、心理臨床の教育•研究に従事しておられる先生がたが開催の中枢をお引き受けくださり、常任理事会から委託を受けた大会経験豊かなメンバーが準備委員会に加わる形で、第37回大会の概要を形作っています。同校のカウンセラーの方々にも参画頂き、さらに学会事務局が多様な業務の合間を塗って大会事務をも担ってくれることとなり、パイロットスタディ的な大会運営が進行しつつあります。それはW杯を控えた「オールジャパン」的な取り組みとも言えそうですが、一方ではお忙しさが尋常ではない少数の方々にさらに労務をお願いせざるをえない苦しい状況でもあります。ご尽力くださっている準備委員会および事務局の皆様に深く感謝の意を表しつつ、今回の経験をぜひとも今後に向けた礎として活かしていければと願っています。




 さあ、新学期、今日も明日も、学生たちが相談室のドアをノックすることでしょう。あるいはさまざまなセミナーやグループ活動への参加を思案していることでしょう。




 学生たちの歩む「ライフサイクル」を支えるために、私たち個々の、そして学生相談という領域の「ライフサイクル」を重ね合わせながら、より良い活動・実践と研修・研究を組み立てていきたいと思います。




なにより、心身の健康に気をつけて、日々を過ごしてまいりましょう。そして第37回大会の会場にて、笑顔でお目にかかれますよう願っています。私たちの「care」と「wisdom」、そのエッセンスを共鳴させていければと思っています。                 




(平成31年1月6日:新学期の始まりを前に。)




<文
献> 




Erikson,E.H. 1982 “A Life Cycle Completed : A
Review”. W.W.Norton & Company Inc, New York.




村瀬孝雄・近藤邦夫(訳)1989 『ライフサイクル、その完結』 みすず書房




西平 直 1997 『魂のライフサイクル -ユング・ウイルバー・シュタイナー-』 東京大学出版会




<付
記>




(*註1)このあたりのイメージは、第55回全国学生相談研修会(昨年12月)において特別講演をお願いした西平 直先生の示唆深いご講演内容と引き続きの昼食時の談笑に喚起されたところが大きい。西平先生が共通の知人である編集者の方のメッセージをお伝えくださったところから、執筆•校正の苦労とともに本の題名をどう付けるかという話に至った際に、「『魂のライフサイクル』というタイトルを目にした時には“やられたーっ!”て思いましたよ」という当方の羨望を交えて交流させて頂いている。




(*註2)学生相談の初心時代と重なるのだが、大学院のゼミにおいて、臨床の手ほどきを授けてくださった先生がたがエリクソンの著作を訳出する現場に立ち会わせて頂いた際に、「ケアー」と「ウイズダム」というその言葉の響きに強く魅かれていたことを思い出す。感情移入が過ぎるかもしれないが、おふたりの先生それぞれが年代的にもキャリア的にもまさに「care」と「wisdom」を体現していらしたように感じていた。




(*註3)『激白!西野 朗×岡田武史〜サムライブルーの未来〜』(NHK-BS1:2019年1月2日放送)にて、現役時代はむしろ口下手な印象のあった両氏が笑顔でサッカーにおける個と組織の関係について明瞭に語っておられたことが印象的であった。悲観論が優勢であったW杯前でも、岡田氏が「西野さんなら大丈夫。彼しかいないし、きっとやってくれる」と言い切っておられたことと併せ、強い信頼感が基盤にあることにも思いを致していた。




(*註4)間もなく実施される「第11期役員選挙」では必ずや投票をお願いいたします。そして、特に中堅・若手の方は当事者意識を強く持って臨んでほしいと願っています。ちなみに、齋藤は理事長2期6年を務め、これ以上の再任は会則上できませんし、その前の事務局長2期6年(理事長代行2回)と合わせれば12年ですから、新しい風が吹き込んでくる時期の到来は必然となっています。

理事長

アクション・カウンセリングのすすめ

~agility(機敏さ)とintensity(強度):2018W杯サッカーから~

日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

この夏は尋常ではない暑さと豪雨が繰り返されました。学生相談・学生支援に携わる皆様はお変わりありませんでしょうか。後学期に向けてこころの準備を始めている学生たちを見守りながら、静かにご自身のカウンセリングを点検し、望ましい援助活動について思いを馳せておられる頃でしょうか(*註1)。

さて、初夏の風が吹き渡る横浜の地で学生相談のエッセンスを共有した第36回大会の日々から早くも3ヶ月以上の時が過ぎました。関東学院大学の皆さまの、 read more »
お知らせ 理事長

「理事長と語る会 in 京都」開催のお知らせ

フラッグツアー「理事長と語る会」が、2018年10月20日(土)京都で開催されることになりました。高等教育機関の教職員であればどなたでもご参加いただけます。

詳しくはこちらをご覧下さい。開催要項
理事長

学生相談:「枠」を守ること/「殻」を破ること

   〜デンバーの青い空:ヨコハマの碧い海〜

日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

2018年の幕が上がりました。学生相談・学生支援に従事されている皆さまはどのような新年をお迎えでしょうか。つい、サッカーW杯の年だ!と考えてしまう自分を諌めつつ、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今冬はひときわ寒波が強く、いわゆる西高東低の気圧配置の中で関東では青空が広がっています。毎朝、テレビの天気予報を眺めては「今日も寒そうだなあ‥」と重ね着の枚数を検討することになるのですが、同時に全国各地の空模様に触れて、我が国の多様な風土にも思いを致しています。ある意味では、天気予報は「自国の国土」をそこはかとなく意識させるものでもあるのだなと感じます。

昨秋に学会行事の一環としてアメリカ出張に出かけた際に、 read more »
お知らせ 理事長 研修会

「理事長と語る会」を開催します

「高めよう!学生相談力×学生支援力」フラッグツアー「理事長と語る会」を、1DAYセミナー 2017(福岡)開催後に開催します。

日時:2017年9月23日(土・祝)17:30~19:30

学生相談を取り巻く厳しい現実と今後について、それに伴う学会の課題について、広く学生支援に携わるかたがたに理事長の声をお届けし、意見交換を行いたいと考えています。学生支援のあり方や学会の活動などについて、関心のある方、齋藤理事長とじっくり語り合えるこの機会に振るってご参加ください。

詳しくはこちらをご覧ください。

 
理事長

学生相談:「こころ」を守る「ちから」を持とう

〜各キャンパスで展開する「代書屋物語」〜

日本学生相談学会理事長 齋藤 憲司

 2017年も半ば近く、各地で雨の季節を迎えようとしています。植物を育て、夏の大地を潤し、人々が干上がらないために、ほどよく降水してくれることを願いながら、カバンに傘を潜ませて日常を過ごしています。

さて、緑まぶしい五月晴れの中部大学キャンパスで、大いに学び、励まされた第35回大会、私たちは何を持ち帰って今年後半を生き抜いていくでしょうか。 read more »
理事長

「学生相談のメンタリィティ」を求めて

   ~ 今こそ「学生相談×学生支援」の旗を振ろう! ~

日本学生相談学会理事長  齋藤 憲司

2017年が幕を開けました。全国各地で学生相談に従事する皆さま、どのような新年をお迎えでしょうか。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

洋の東西を問わず、去る年を惜しみつつ、来る年に願いを込める、そんな各地の風景に時々不思議な気持ちになることがあります。地球の自転は絶え間なく、365日とわずかなプラスαの時間を持って太陽の周りを巡り続ける、その始点を便宜的に定めることで、私たちはたくさんの物語を紡いできました。 read more »
理事長

学生相談のJapan Way(理事長メッセージ)

「学生相談のJapan Way」
〜高めよう!学生相談力×学生支援力:第10期の出立に寄せて〜

日本学生相談学会理事長 齋藤 憲司

2016年初夏、青春をイメージさせる吉祥寺と若者文化の発信地である秋葉原で開催された第34回大会を経て、本学会の新しい体制がスタートいたしました。再度の理事長に選定されてしまった戸惑いを越えて、第10期役員選挙によって選出された常任理事および理事の皆さんとともに、学生と大学等を支える学生相談の充実に向けて微力を尽くしていく所存ですので、どうぞよろしくご支援のほどお願いいたします。

さて、前期(第9期)では「喫緊の諸課題に関する実践的ガイドライン」の作成に取り組んできた訳ですが、今期はより read more »
理事長

青春のきらめき、ふぞろいだからこそ(理事長メッセージ)

青春のきらめき、ふぞろいだからこそ
〜2016年、学生相談が支える「君たちの旅」〜
日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

学生相談ならびに高等教育に関わるみなさま、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
各キャンパスで学ぶ学生たちが充実した日々を送れますよう、そして教職員にとっても良き1年にしていけますよう、ごいっしょに進んでまいりましょう。本年もどうぞよろしくおねがいいたします。

さて、今回は「新春」ということばに惹かれて、少々気恥ずかしいタイトルを掲げてしまいました。吉田拓郎氏のデビューアルバムが『青春の詩』と銘打った作品であったことは昨春に記したとおりですが、思い起こせば、私たちの世代は(50代とその前後ですね)、「青春」的フレーズ read more »
理事長

学生相談の「型」をつくるために(理事長メッセージ)

学生相談の「型」をつくるために
〜「個」と「組織」の「連働」から〜
日本学生相談学会理事長:齋藤 憲司

広島の晴れ渡った空を見上げながら、学生たちのために日々ご尽力なさっている皆さまと過ごした第33回大会も盛況裏に終わり、3日間の成果を各地で活かしておられる頃かと存じます。開催にあたって最大限のご配慮を頂いた広島修道大学ならびに広島地区の関係者の皆さまに深く感謝の意を表しつつ、今期の役員一同、任期の最終年度を良いかたちで締めくくるために、学生相談をめぐる動向を見渡しながら諸活動を展開してまいります。キャンパスの碑に刻まれた「今日までそして明日から」(吉田拓郎氏)の想い、しっかりと確認いたしました。
(なお、今大会の主テーマを反映したシンポジウム「高等教育における学生相談•支援の位置づけーこれまで、ここからー」は、現在の大学等 read more »
理事長

学生相談、2015年の新しい海へ(理事長メッセージ)

学生相談、2015年の新しい海へ
〜日々刻む、今日までそして明日から〜
日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

学生相談ならびに高等教育に関わるみなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
時の流れは一定のはずなのですが、この時期はなにか特別な緩急があるような気がします。1年という区切りを設けることで過去と未来を見渡すものさしを作り直し、気持ちをリセットできる効用もあるのかなと思います。本年もまた、全国の各校•各キャンパスで学び育っていこうとする若者たちの姿に励まされながら、私たち教職員も常にフレッシュな存在でありたいものだと願っています。
さて、多くの大学等で教育や経営に係る改革が進行し、どなたもがルーティン•ワークに留まっていられない状況が続いているのではない read more »
理事長

ワールドカップ2014に見る学生相談(理事長メッセージ)

ワールドカップ2014に見る学生相談  〜「柔軟な信念」と「公約数の最大化」を指針として〜

日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

そろそろ前期も締めくくりに入る時期、学生相談にかかわるみなさま、お元気でお過ごしでしょうか。5月に神奈川大学で開催していただいた第32回大会•総会も充実した内容で幕を閉じ、第9期執行部も順調に2年目の業務に取りかかっています。準備委員会の先生方にこころより感謝申し上げますとともに、ご協力•ご参加くださったみなさまとともに大会の成功を喜びたいと思います。
本来でしたら、大会終了後すぐに、理事長あいさつを本Webに掲載するつもりだったのですが、ご存じのように今年の6月〜7月はワールドカップ一色に、その感動と興奮と失意にまぎれて、予定が予定どおりにこなせなくなっておりました。思い起こせば、2年目最初の常任理事 read more »
理事長

学生相談の2014年 (理事長メッセージ)

学生相談の2014年
〜「ちゃんぷる」から「ハートカクテル」への旅路〜

日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

学生相談にかかわるみなさま、どのような新年をお迎えでいらっしゃいますでしょうか。講義も再開され、そして入試の準備も始まって、今年はどんな出会いがあるだろうか、学生たちのために何ができるだろうか、等々、あれこれ思いをめぐらせておられることと存じます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

昨年5月の琉球大学における第31回大会において発足した常任理事会/理事会/9つの委員会は、その任に就かれた諸先生がたのアイデアとご尽力で着実に、かつ新たな色彩を加えて、歩みを進めております。本学会は、5月の年次大会と11月の全国学生相談研修会とい read more »
理事長

新理事長からのごあいさつ