新理事長就任あいさつ

理事長 高野 明(東京大学)

このたび、法人第2期の理事長に就任いたしました高野です。これから2年間、田附副理事長・事務局長をはじめ役員の先生方とともに、本会の舵取りを担当させていただきます。

本会は、1955年に前身の「学生相談研究会」が設立され、1987年に「日本学生相談学会」という学術団体として再出発し、それから35年が経過した2022年4月に、ようやく法人化を果たしました。現在では、個人会員約1500人、機関会員約300団体が所属する心理学系の学会の中でも比較的規模の大きな学会へと発展しています。これまでの本会の運営にご尽力くださった先輩方のおかげで、時間をかけて、学会としての基盤が固められてきたと言えるでしょう。そのような中で、近年では、学会の運営体制についても変化が生じてきています。今期は、役員の半数が新任の役員となり、今後も、法人化前と比較して早いサイクルで役員が交代していくことが想定されます。そのため、これまで引き継がれてきた学会の基礎を大事にしながら、持続可能な運営体制を整備していくことが急務となっています。そこで、今期の役員会は、高石前理事長のもとで進められた法人化とそれに伴う組織整備の成果を引き継ぎ、学会運営体制の充実・強化に取り組んでまいります。

また、今期の重要なテーマとして、学生相談の活動モデルの整理を掲げたいと考えています。「大学全入時代」に突入し、学生の属性や生活様式がこれまでと比べても格段に多様化し、デジタルネイティブ世代の学生のコミュニケーションのあり方や、学生の生活領域は急速に変化しています。本会では、これまでも、「学生相談機関ガイドライン(2013年)」、「学生の自殺防止のためのガイドライン(2014年)」、「発達障害学生の理解と対応について—学生相談からの提言(2015年)」、「『性別に違和感を持つ学生に、大学はなにができるか』大学における学生の困難と支援の現状(2016年)」、「遠隔相談に関するガイドライン(2020年)」等を公表し、多様な学生の課題への多様な関わり方について、提言を行ってきました。

コロナ禍を経て、学生の多様性対応に関する課題は、さらに複雑さ、深刻さが増してきていると思われます。学校によっては、LGBTQ学生への支援強化が課題になることもあれば、留学生への対応が急務になっていることもあるでしょう。また、学力や目的意識が乏しい学生への支援が重視されることもあれば、複雑な家庭環境や、経済的困窮を抱える学生への支援が課題となることもあるかもしれません。「多様な学生」の内実自体が、学校ごとに多様になってきている中で、それに応じて、学生相談としての関わり方も多様になってきています。社会正義の推進と学生の権利擁護のための働きかけ、問題を抱えた学生のもとにカウンセラーが出ていくアウトリーチ的支援、学生本人とは関わらず関係する教職員や家族との連携が中心となる事例等、個別のカウンセリング的関わりでは対応が難しい例も多く見られるようになってきており、本会としても、学生相談の今日的な支援のあり方についてアップデートし、再提示することが求められていると言えるでしょう。

日本学生相談学会は、学生相談に関わる教職員やカウンセラーの実践と研究を支えるネットワークであり、学生の成長促進と高等教育の発展に貢献するための団体でもあります。会員の皆様および関係する皆様のご協力とご理解をいただきながら、本会の活動がより充実したものとなるよう努めていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

 

2023年5月29日

 

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