学生相談において、遠隔相談(Distance Counseling)を導入する際の留意点

Ver.1.02(2020.3.15)

                       日本学生相談学会常任理事会

 新型コロナウイルス感染拡大防止策の一つとして、新たに遠隔相談(Distance Counseling)の導入を検討している大学もあるようです。しかし、遠隔相談は便利であるとともに、対象者の適応(どのような対象者に行うのが適切か)やセキュリティなどを慎重に考慮する必要もあります。そこで、今回、暫定的ではありますが、学生相談において遠隔相談を導入する際の留意点についての情報を、会員の皆様に発信させていただきます。作成にあたっては、日本での遠隔相談の実践の実績は少ないので、先進的なアメリカのガイドラインや日本での精神科医療における遠隔診療の知見等を参考としました。これに則って遠隔相談を行うべきということではありません。あくまでも現時点で、留意点と考えられる情報です。各機関の事情や判断に基づいて、運用のためにご参照いただければと思います。

1.遠隔相談を導入する前の留意点

  1. 遠隔相談の対象者を明確にする。
  2. 対象者に適切な遠隔相談の媒体を決定する。その媒体に関する技術やセキュリティについて学び、関連する遠隔相談の文献があれば目を通し、利用者に与える心理的影響を考慮する。また利用者のネットリテラシーやコンピューターのスキルも考慮に入れ、その利益とリスクを慎重に見極める。
  3. 活用ポリシーと手順を検討する。また利用者が地理的に分散することや危機的な状況を考慮に入れて、広範な社会資源の情報を利用可能にしておく。
  4. 遠隔相談の必要性の根拠と大学側との折衝のための資料をまとめる。(目的、対象者、方法、リスクマネジメント等)
  5. 備品の調達、環境整備、ソフトウェアの設定及びセキュリティ対策を行う。
     カメラ・マイク機能付きPCまたはタブレットの調達、ヘッドホンマイクの検討、Zoomなど使用するサービスの選択。インターネット接続は、有線LANが望ましいが、無線LANの場合、暗号化やパスワード管理等のセキュリティについて確認が必要。相談室内の画面に映る場所の適切さの確認。(映りこむ物、光源、日差し、カメラの位置など調整)
     相談室側の提供サービスのセキュリティ(端末へのウィルス対策ソフトの導入、OS・ソフトウェアのアップデート等)を十分にしておくのは当然だが、対象者にインターネットリテラシーがどの程度あるか、ルール遵守がどの程度可能かの見立てや確認も必要。不特定多数の者が利用可能な公衆無線 LANの使用は緊急時や他の手段がなくやむを得ない場合を除き控えてもらう。
  6. 海外からの遠隔相談の文化差の考慮。【参考資料7.p.31-32参照】
     対象者が国外から遠隔相談を利用する場合、心理支援サービスについては国や地域によって、そこの資格保有者でなければ実施してはいけないという場合もあり、その国における法律や条例を遵守するよう努力する必要がある。継続的な心理療法や心理検査ではなく、今回の新型感染症対策のような緊急措置としての単発の遠隔相談ではこの問題は発生しにくいが、カウンセラーが対象者の国・地域の法律情報に精通していないことを伝え、了承を得ることも必要。
  7. 遠隔相談セッションについてのインフォーム・ドコンセントの用意。【参考資料3.巻末資料1参照】
    1. 遠隔相談のセキュリティが100%ではなく、リスクがあること、対面と同様のサービスを提供できないこと、その他考えられる限界を説明して承諾を得る。
    2. 対象者がセキュリティの問題に協力してもらえるか確認する。
    3. 遠隔相談を受けるプライバシーが守れていて、安全で適切な環境か確認する。
    4. 予想される問題(通信システムの不具合時、緊急時の連絡先など)を説明し、その対処方法について確認する。
    5. 対象者に情報漏洩防止についての説明をし、同意を得る。(録画・録音・撮影の禁止)
      *参考:初回遠隔相談の事前準備【参考資料6.より一部翻訳】
      1. 相談場所は途中で誰かの邪魔が入ったり、音漏れがしないような場所に設定する。音漏れの可能性があるなら、ホワイトノイズマシンを利用したり、イヤフォン等を使用して対策を行う。
      2. 相談場所が安全で快適であることも非常に重要である。
      3. ノートパソコンやデスクトップコンピューターが望ましいが、タブレットやスマートフォンを使用している場合は、デバイスを水平になるよう固定する。
      4. コンピューターとルーターはできるだけ有線で接続し、やむをえず無線ルーターを使用する場合はなるべくコンピューターの近くに設置する。
      5. 利用するサービス以外のプログラムはすべて終了する。
  8. 使用するサービスについて
     遠隔相談に必要とされるサービスの定義として、1)通信品質:映像や音声の遅延や欠落、停止などがないこと、2)可用性:いつでも動いていること、3)耐盗聴・改竄性:ビジネスレベルのセキュリティが確保され、個人情報保護が担保されること、4)アクセス制限:相談室の預かり知らないところで学生と他の人とやりとりできないこと、5)実績:すでに実績があることが挙げられる。【参考資料5.】
    各サービスの比較(参考資料6.を作者が一部改変 2020.3.13.pm19:21 更新)
     

    Skype

    Zoom

    MicrosoftTeams

    通信品質


    時々止まる
    気にならない人もいる


    有線LAN推奨
    止まることもある


    Skypeと同程度

    可用性

    99.99%以上)

    99.67%以上)

    99.99%以上)

    耐盗聴・改竄性


    ビデオ通話はE2E暗号化*されていない


    E2E暗号化

    ◎◎
    E2E暗号化
    異常検知時に報告

    アクセス管理


    アカウントを知っていればアクセス可能


    同じドメインならアクセス可能な場合がある


    同じ組織ならアクセス可能な場合がある

    実績


    Skype for Business の一部がHIPAA準拠
    ビジネスではセキュリティの高い有料版Skype for Business の使用が推奨

     


    HIPAA準拠プランあり
    米国カウンセリングで活用

     

     

     


    世界中のビジネスで活用
    HIPAAセキュリティルールの要件を順守しているが、事業提携契約が必要な場合もある

    コスト

    Skype(無料) Skype for Business(有料)

     

    基本プラン(無料)
    有料プランで通信品質・可用性・アクセス管理を改善可能

    無料版、有料版

     

    表 サービスの比較【参考資料5.を一部改変】

    *E2E暗号化(エンドツーエンド暗号化) 利用者が鍵を持つことで、サービス管理者、プロバイダーなど第三者が内容を盗聴できないようにする技術のこと。
    註:アメリカでは、HIPAA( Health Insurance Portability and Accountability Act:米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に準拠しているものとして、Zoom for Healthcare(月200$)がある。日本では医療向けZoomがある。ビジネスプランでHIPAA設定することが可能。
     上記のサービスの他に学生がよく使用するビデオチャットとしてLINEのビデオ通話(1対1であればE2E暗号化、HIPAAには準拠せず)、iPhone等Apple製品のFaceTime(E2E暗号化、HIPAAには準拠せず)」がある。日本の相談機関では、Zoomを用いることが比較的多い。

2.遠隔相談を実施する際の留意点

  1. 相談に適した環境かどうか確認する。通信状態、映像の画質、明るさ、音声、大きさが双方にとって、相談に適切であるか絶えず、確認する。
  2. 明瞭に話し、相槌やうなずきなどで、傾聴していることがより明確に伝わるようにする。
  3. 対面に比べて、生の感覚がつかみにくいので、必要に応じて、疲労やセッション継続の確認をする。
  4. 面接・接続の終了を明確にする。
  5. 対面面接がより適切でないかをつねに査定し、必要であれば面接の形式を変更する。

【参考資料】

1.American Psychological Association (2013) Guidline for the Practice of Telepsychotherapy American Psychologist, 68(9), 791-800. https://www.apa.org/pubs/journals/features/amp-a0035001.pdf (2020年3月10日取得)

2.HEMHA 2018 College Counseling from a Distance: Deciding Whether and When to Engage in Telemental Health Services.
http://hemha.org/wp-content/uploads/2019/01/HEMHA-Distance-Counseling_FINAL2019.pdf(2020年3月7日取得)

3.岸本泰士郎他 2018精神科領域における遠隔(オンライン)診療のための手引き(第1.0版 2018.12.1).https://www.i2lab.info/tebikisho(2020年3月7日取得)

4.厚生労働省 2018 オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成 30 年3月令和元年7月一部改訂)https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf(2020年3月7日取得)

5.三河佳紀・原田恵雨・大島和浩・漆原弘美・斉藤美香 2019 遠隔カウンセリングの試みについて.第16回全国国立高等専門学校学生支援担当教職員研修発表資料.

6.Person Centered Tech  Online Therapy Pre-Intake Preparation for Clients.
https://personcenteredtech.com/tmh/clients/ (2020年3月7日取得)

7.杉原保史・宮田智基編著 2019  SNSカウンセリング・ハンドブック. 誠信書房.

8.吉田和生・岸本泰士郎 2019 遠隔精神科医療のガイドラインについて. 精神科治療学, 34(2) ,203-207.

 

【付記】

本資料を作成するにあたり、杉原保史先生(京都大学学生総合支援センター)、石井治恵先生(北海道大学学生相談総合センター留学生相談室)、原田恵雨先生(苫小牧工業高等専門学校)のご協力をいただきました。

作成者:「学生相談における遠隔相談導入に関する検討チーム」 高石恭子(甲南大学)、高野明(東京大学)、斉藤美香(札幌学院大学)、太田裕一(静岡大学)

以上