学生相談の2014年 (理事長メッセージ)

学生相談の2014年
〜「ちゃんぷる」から「ハートカクテル」への旅路〜

日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

学生相談にかかわるみなさま、どのような新年をお迎えでいらっしゃいますでしょうか。講義も再開され、そして入試の準備も始まって、今年はどんな出会いがあるだろうか、学生たちのために何ができるだろうか、等々、あれこれ思いをめぐらせておられることと存じます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

昨年5月の琉球大学における第31回大会において発足した常任理事会/理事会/9つの委員会は、その任に就かれた諸先生がたのアイデアとご尽力で着実に、かつ新たな色彩を加えて、歩みを進めております。本学会は、5月の年次大会と11月の全国学生相談研修会という2つの大きな行事を土台に、おおよそ半年ごとの区切りで活動していますので、現在は3年間の任期のおおよそ1/6を経過したことになります。既にみなさまの目に見えるかたちでご提示できていることから、3年間かけて総まとめ的にお示しすることになるものまで様々ですが、そのどれもがきっと学生相談の共有財産として結実していくに違いないという確かな感触を抱いています。
(文末に、今期に就任して以降の活動を記しておきました。「理事長動向」があると学会の動きが見えやすいのではという常任理事会の先生がたのご示唆があってのことなのですが、改めて、なんと多くの活動が展開されていることかと思います。)

琉球大学での3日間は、ほんとうに夢のような時間でした。日本国が沖縄のみなさまにおかけしてしまっている多くの負担を思うと,時にいたたまれない気持ちになるのですが、そのうえで、ここまで来訪者をあたたかくお迎えしてくださることに涙ぐむような思いでおります。その1年前にプレ企画として沖縄の学生相談関係者の皆様がシンポジウムを開催してくださったのですが、その帰りに空港で購入した「琉球•沖縄史(ジュニア版)」を読み返しては、苦労を重ねつつ貴重な文化を育まれてこられた沖縄の方々への敬意を深めていました(会員のみなさまもぜひお読みくださればと思います。)。喩えるのは少々むりがあるかもしれませんが、相談に訪れる学生の語りと姿からキャンパスと社会のありようが見えてくるように、沖縄を学ぶことで日本と世界の様相が見えてくるような気がしています。あらゆる要素をちゃんぷるして共存させる懐の広さがそこにはあるのだと思います。
さて、今年の5月には、横浜にある神奈川大学にて第32回大会を開催していただきます。お手元に「ご案内」が届いていることと存じますが、表紙を飾るわたせせいぞうさん(特任教授であられることにもびっくりです)の爽やかなイラストに、思わず表情がほころんだことと存じます。なんと言っても私たちの世代では、氏の「ハートカクテル」は若者文化における半ばバイブル的な書籍でしたから、一瞬にしてタイムスリップを味わったような感じがしました。すこしスタイリッシュを気取ってでも、悲しさや苛立ちやなやみをほのかな甘酸っぱさに変換させて、懸命に日々を生きる若者たちの姿が描かれていたことを思い出します。おそらくはいまも同じような青春群像がキャンパスに息吹いているであろうことも想像されて、カウンセリングルームだけでは見えてこない世界にイメージが広がっていくような気がしています。(ちょっと気恥ずかしいですが、例えば「プレーンノットのぼくのネクタイ、今日も風に自由だ」というせりふで、失恋の痛みを吹き流そうとする主人公の一節がいまもこころに残っています)。神奈川大学の大会で、どのようなカクテルがブレンドされていくことになるか、いまから楽しみです。ぜひ多くの方がご参加くださいますようねがっています。

我が国の大学等や高等教育をめぐる状況は、ここしばらく変動の時代が続いています。そのなかで学生相談•学生支援がどのような位置づけになっていくのか、はたして落ち着いて相談活動に取り組める状況が用意されることになるのか、私たちも教育行政や大学教育にコミットしつつ、動向を見守っていければと思います。たとえば現在、「大学ポートレート」という各大学共通の紹介フォーマットが公的に定められようとしていますが、そのなかで学生相談がどのような位置づけになるのかといったことにも、ひとつひとつ注視していきたいと考えています。
組織や情勢は揺れ動いても、決して変わらない、替えてはならないものもきっとあるだろうと思います。そのひとつが、学生のこころに寄り添いながら、1つ1つのケースに合わせて見立てと方策を探る学生相談の基本姿勢であるだろうと信じます。
学生たちのちからになるために、教職員のみなさまをサポートするために、あるいは親御さんやご家族の安心のために、そしてお互いを支えていくために、ぜひ、ことしもごいっしょに学び合っていきましょう。

〜2014年1月6日:御用始めの日に〜
<文献>
新城俊昭 2008 「ジュニア版 琉球•沖縄史——沖縄をよく知るための歴史教科書—−」
編集工房 東洋企画
わたせせいぞう 1984-1990 「ハートカクテル」1巻〜11巻 講談社

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<理事長動向>
〜本学会の行事や会議に加えて、全国的な行事等に学会の公的な立場を表明して関わったものも記します。〜
(2013年)
5月18日〜20日:日本学生相談学会第31回大会(総会にて現執行部が発足。各メンバーともども自己紹介と抱負を語る)
6月8日:第2回常任理事会(基本姿勢を確認して今期の常任理事の先生方とスタートダッシュ/固めの盃を交わす)
(6〜7月:第51回全国学生相談研修会の案内発送と申込状況に沿った準備/事務局中心に)
7月13日:第3回常任理事会(一気に審議事項が計15議案出され、4時間の協議をおこなう)
8月3日〜4日:第37回学生相談セミナー(研修委員会のアレンジのもと、ひとりの学生のために何ができるか深く検討。夜はビーチボールバレーではじける。良い会ですのでぜひご参加を!)
8月9日:大学改革フォーラム(学生支援GPについて、学生相談を土台にした例として東工大から話題提供。GP事業復活の兆しも。)
(8月:「学生相談ニュース」No.104発行、理事長から「いま学生相談のためにできること」を掲載、事務局長はじめ常任理事会メンバーも各委員会の活動方針を提示。)
(8月下旬:東日本大震災復興•相互支援のためのおたよりを該当地区の会員のみなさまに、理事長名で発送させていただく)
(8月下旬:大学教育学会誌の依頼で「日本学生相談学会の活動状況について〜個別支援と大学教育を結ぶ実践および研究から〜」を学術交流委員長との連名原稿として提出。)
8月25日:日本心理臨床学会の自主シンポジウムに指定討論者として登壇(学生相談カウンセラーのライフサイクルについて若手•中堅のみなさんと)
9月5日:第4回常任理事会(さらに本格的に案件が審議されていき、各活動が軌道にのっていく。会議は3時間で納まり、ほっとひと安心)
(9月:内閣府の自殺予防週間に協賛しつつ、本学会のスタンスや可能な活動等について、事務局長、特別委員長と協議)
9月25日〜28日:American College Counseling Association 2013 Conference に出席する学術交流委員に理事長親書を託す(震災時のサポートへのお礼を兼ねて、ほんとうに有り難かったのです)。
9月28日:国際基督教大学カウンセリングセンター50周年記念行事に祝辞を寄せる。
(リベラルアーツと学生相談の融合をイメージして:なお、元会員であられた中釜洋子さん(当時:東京大学)の1周忌のため会は欠席)
10月5日:第5回常任理事会&第51回全国学生相談研修会講師打ち合わせ会
(全国研打ち合わせは当日をイメージしつつ、次の半世紀に向けて、着実な進展を誓いました。熱心な講師の先生がたに感謝です)
10月18日:第51回全国学生相談研修会の第3回準備委員会(直前準備に向けて)
10月21日:ドイツ学生支援協会の皆様が来訪、協議と懇親(東工大にて/学生を自立した存在として位置づけた上でサポートのあり方を考慮するドイツ的なあり方は健在でした)
10月22日:平成25年度学生生活にかかるリスクの把握と対応に関するセミナー〜中途退学、休学、不登校の学生に対する取組〜 主催:日本学生支援機構、後援:文部科学省・日本学生相談学会(アレンジ役兼司会者として参加。各校の副学長や学生部長を含む450名ほどがご参加され、学生相談と学習支援のコラボを確認)
11月1日:第51回全国学生相談研修会の会場打ち合わせ(研修委員長、会計委員長、事務局とともに細部を確認してひと安心)
(10月末:神奈川大学より事前に頂いた第32回大会の案内(案)を見て、イラストとワークショップに感銘!)
11月2日:成蹊大学学生相談室20周年記念行事にて祝辞を述べる(ひとつのモデルになりうる充実ぶりに感銘、今後にますます期待です)
11月23日:東京都の大学生向けシンポジウムのプログラムづくりを応援(本学会が後援も全国研の準備で参加はできず。昨年は講演したのですが‥。)
11月24日〜27日:第51回全国学生相談研修会(前泊して準備、当日は講師陣のレクチャー&交流促進がすばらしく、参加された皆様の熱意にも励まされて。総計600名以上の会ですが、大過なく終了できて安堵。特別講演:渡部憲司先生のお話から「時に海を見よう」と思う。)
12月7日:東京大学学生相談所60周年記念行事(自身が在籍していた頃と比べても、その充実ぶりに感謝の思い。引き続きリードしていってほしいと願う)
12月14日:大学カウンセラー資格認定委員会&学生支援士資格認定委員会(資格認定委員のみなさんの熱心さに感謝しつつ、申し込まれた方々の思いを大事に共有。まだの方々はぜひ取得を!)
12月21日:第6回常任理事会(年内の常任理事および関係者のご尽力に感謝しつつ、新年に思いを馳せる)/喫緊課題ガイドライン委員会(特別委員会を中心に、最も緊急な自殺/自死の課題について意見交換)
〜なお、各委員会の活動内容と、本学会に係る審議事項は、「学生相談研究」に議事要録が記載されていますので、ぜひご覧になってください。また、主要行事や重要な連絡事項については「学生相談ニュース」を確認くださいますようお願いいたします。理事長が直接には関わらないかたちでも、実にたくさんの業務が各委員会で進められていますので。また、心理学諸学会連合や心理資格に係る全国的な諸会議には、関東地区の常任理事の方々に手分けしての出席を依頼しています。)
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